圧倒的な日常体験 ― ハイデラバードの街で
2019年2月、私はインドのハイデラバードを訪れました。
街を歩けば、次々に手を差し出し「お金をください」と声をかけてきます。私は困った顔で、こう答えるしかありませんでした。
「ごめんなさい。あまりに多くの人に言われるので、もうお金がなくなってしまいました。」
すると、一人のお婆さんが私にこう言ったのです。
「ごめんなさい、と言わないで。」
その言葉に不思議と胸が軽くなりました。
インドの街は、まさに五感を刺激する舞台でした。
色彩豊かなサリーをまとった女性たちが太陽の光を受けて輝き、スパイスの香りが風に混ざって鼻をくすぐります。耳には途切れることのないクラクションの音が押し寄せ、混沌の中に生命のリズムを感じました。
人との距離の近さも圧倒的でした。見知らぬ人に話しかけるのはごく自然なことで、シンポジウムで訪問した私も何度も笑顔を交わしました。その一瞬のやりとりが温かく、人間味にあふれた交流となって残ります。
市場やバザールの熱気も忘れられません。チャンドニー・チョークやジャイプールのバザールを思わせる光景の中で、人々の呼び声や値切り交渉が渦を巻き、混乱の中にも活気が満ちあふれていました。
こうした体験は、若い頃に通ったコンサートやディスコを思い出させました。大音量の音楽に身をゆだね、家に帰っても耳にリズムが残り、夜寝ようとしてもその余韻が響いていた――あの感覚です。インドの日常も同じように、目や耳や心に焼き付いて離れません。
インドの「圧倒的な日常体験」とは、単なる旅先の出来事ではなく、五感に刻み込まれ、心に余韻を残す体験です。ネガティブよりもポジティブが勝り、混沌の中に不思議な生きる力を感じてしまう。それこそがインドの持つ大きな魅力です。
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